「催芽(さいが)って、具体的にどうやればいいの?」
「温度は何℃?時間はどのくらい?」
催芽のやり方がわからず、とりあえず種を水に浸けて祈るように待った経験はありませんか?
実は催芽の失敗パターンには共通点があります。温度が高すぎた、水に浸けすぎた、芽を伸ばしすぎた……。逆に言えば、「温度」「水分」「タイミング」の3つを押さえれば、催芽は誰でも成功率を大幅に上げられる技術なんです。
元ホームセンター系の農業資材店で働いていた管理人が、在職中に種苗メーカーの営業さんから直接聞いた催芽のコツや、農家などの声などを元に、米(水稲)の催芽のやり方をわかりやすく解説していきます。
この記事でわかること
- 催芽とは何か、なぜやるのかがわかる
- 米(水稲)の浸種〜催芽の正しい手順とハトムネ状態の見極め方
- 催芽で失敗しないための温度・水分管理の急所
野菜の催芽についてはこちらの記事へ
そもそも催芽とは?やる意味を理解すると失敗が減る
催芽とは、種まき前に人工的に温度や水分を与えて、種子の発芽スイッチを「ON」にすることです。つまり種まきのための準備ですね。「芽出し」とも呼ばれています。
なぜわざわざ催芽をするのかというと、
種をそのまま土にまくと発芽のタイミングがバラバラになる
からです。植物の種子はもともと、自然界で全滅を避けるために発芽時期を分散させる性質を持っています。農業ではこの"バラつき"が管理の手間やムラの原因になってしまいます。
催芽をする3つのメリット
催芽をすることで得られる具体的なメリットは次の3つです。
催芽のメリット
- 発芽時期を揃えられる
- 発芽率が高い
- 発芽までの時間が短縮
詳しくお話します。
発芽が均一にそろう
種が一斉に発芽するため、その後の温度・水分管理、肥料やり、定植、収穫といった一連の農作業のタイミングを完全に合わせやすくなります。また、初期の生育がそろうことで種の状態も同じになり、より強健な苗が育ちます。
発芽率の向上と「欠株」の防止
最適な温度・水分条件を人工的に与えることで、自然に蒔かれた状態よりも発芽率が高まります。また、あらかじめ根や芽が出た種だけを選んで土にまくことができるため、発芽しない種をまいてしまう失敗を防げるので、ポットや育苗トレイ芽が出ないなんてことはありません。
発芽までの時間を短縮できる
春先の低温期など、外の環境では発芽しにくい時期であっても、人為的に発芽に適温環境(20〜30℃など)を作ることで、短期間で確実に発芽させることができます。
品質と収量の安定化
生育のそろった丈夫な苗を育てることで、病害虫に対する抵抗力が上がり、最終的な農作物の品質や収量の安定化にもつながります。
このように、催芽は植物の順調な成長の基盤を作り、その後の栽培管理をスムーズにするための非常に重要な工程です。それでは催芽について詳しく解説していきます。
米(水稲)の催芽のやり方|塩水選から完了までの手順
水稲の催芽は「苗半作」と言われるほど、その後の収量を左右する重要な工程です。催芽作業は
- 塩水選
- 種子消毒
- 浸種
- 催芽
の順番で行っていきます。それでは一つずつ詳しく解説していきます。
塩水選
塩水選(えんすいせん)とは、良い種もみだけを選別するために、塩水を利用して中身の詰まっていない軽い籾や病気の籾を浮かせて取り除く作業です。自家採種した種子や未消毒の種子を使用する場合には必ず行います。
塩水選をすることで
塩水選のメリット
- 発芽と生育を均一にする 塩水に沈むような中身が詰まった種もみは、発芽率が高く、根の活力が強く、田んぼでの活着(根付き)も良くなる。
- 病気の種もみを取り除く 「いもち病」や「ばか苗病」などに感染している籾や、未熟な籾は軽い傾向があるため、塩水選によってこれらを浮かせて取り除くことができます。
というメリットがあります。
塩水は
- うるち米(コシヒカリなど)塩の量: 水10リットルに対して食塩約1.9kg〜2.1k
- もち米の場合:塩の量: 水10リットルに対して食塩約1.1kg〜1.4kg
となります。
手順を説明すると
- 芒(のぎ)の除去と下洗い 種まき機への引っかかりを防ぐため、籾についている毛(芒)を取り除きます。その後、真水に入れてかき混ぜ、浮いたゴミや籾を先に取り除いておきます。
- 塩水に入れる 作った塩水に種もみを入れ、よくかき混ぜます。
- 浮いた籾を取り除く 浮き上がってきた軽い籾は、網などを使ってすべて取り除きます。底に沈んだ籾が、使用する「良い種もみ」です。
- 真水でよく洗い流す(重要) 選別が終わったら、塩水から取り出した種もみをすぐに真水でしっかりと洗い流します。
という順番で行っていきます。注意点として
塩分はきっちり洗い流す(発芽障害(発芽不良)の原因)
購入した「消毒済み種子」には行わない (JAなどで購入した、消毒済み種子は、塩水選を行うとコーティングされた薬剤が落ちてしまう)
この2つには注意してください。
種子消毒
種子消毒は、種もみに付着している「ばか苗病」「いもち病」「ごま葉枯病」「もみ枯細菌病」などの病原菌を死滅させ、病害の発生を予防するための非常に重要な工程になります。
主に「薬剤消毒」と農薬を使わない「温湯消毒」の2種類の方法があります。それぞれのやり方と注意点を説明していきます。
薬剤消毒(化学合成農薬による消毒)
農薬(テクリードCフロアブルやスポルタックスターナSEなど)の希釈液に種もみを浸して殺菌する方法です。ポイントとして
- 薬液の温度は10〜15℃を保つ 薬液の温度が10℃未満になると、薬剤の効果が低下したり不安定になったりするため注意が必要です。
- たっぷりの薬液でムラなく消毒する 種もみと薬液の容量比は「1:1以上(重量比では種もみ1に対して薬液2程度)」とし、十分な量の薬液を用意します。また、種もみ袋に籾を詰めすぎず(容量の70〜80%程度)、薬液の中で袋をよく揺すって気泡を追い出し、種もみ全体にムラなく薬液を行き渡らせます。
- 薬液の「使い回し」は厳禁 消毒液は1回限りで使用し、使い回しは絶対にしないでください(病害発生の原因となります)。
- 消毒後の風乾の注意 薬剤によっては、消毒後に半日〜1日程度「陰干し(風乾)」をして、薬剤を種もみにしっかり付着(定着)させる必要があります。
をしっかり守って行いましょう。
温湯消毒
農薬を使わずに、お湯の熱で殺菌する方法です。いもち病やばか苗病などに効果がありますが、一部の細菌病(もみ枯細菌病など)には効果が不十分な場合があり、また薬剤のような残効性はありません。
手順は
- 60℃のお湯に10分間浸ける 種籾1kgあたり20リットル以上のたっぷりのお湯(60℃)を用意し、正確に10分間浸漬します。
- 処理後はすぐに冷水で冷やす 10分間の浸漬が終わったら、熱による発芽障害を防ぐため、速やかに冷水(流水)に入れて種もみを冷却します。
という順番で行います。
注意点として収穫前の天候不順などで、籾殻の隙間から玄米が見えてしまっている「割れ籾(開穎籾)」が種子に混ざっている場合があります。割れ籾が含まれる種子に「温湯消毒」を行うと、発芽率が著しく低下してしまうため、この場合は温湯消毒を避け、薬剤消毒を行うようにしてください。
浸種(しんしゅ)で種もみに水を吸わせる

浸種とは、発芽を均一にするために種籾を水分に浸す作業です。以下の点に注意して行います。
浸種のポイント
- 水温(10~15℃)
- 日数(積算温度100℃)
- 水量(種容量の2倍以上)
- 酸素(1日1,2回空気に触れさせる)
- 種が飴色になって肺が白く透けて見えたら浸種終了
まず最も重要なのは、浸種開始直後の水温管理です。水温10℃〜15℃を必ず守ってください。特に最初の8〜24時間は10℃未満だと吸水が極端に遅くなり、発芽の不揃いにつながります。
吸水の目安は「積算温度100℃」です。つまり水温x日数となり、10℃x10日で積算温度100℃となります。ただ目安となるため「ふさおとめ」「ふさこがね」といった品種では積算温度120℃が必要といわれており品種ごとの確認が大切です。先程の水温管理が高すぎると、積算温度100℃に行く前に発芽していまったり、病気の原因になったりします。
水量も大切です。種籾が十分吸水できるように、容量の2倍以上の水につけてください。10kgの種籾には20Lの水を使います。
浸種中は2日に1回程度水を交換して、さらに種を1日1,2回水から出して空気に触れさせてください。ただ種子消毒を行った場合は、薬効を高めるために最初の2~4日間は水を交換しないでください、薬剤が流れてしまいます。これは種籾から出た有害物質の除去と酸素の供給が目的です。
籾殻全体が半透明(飴色)になり、胚乳(胚の部分)が白く透けて見えるようになったら浸種完了のサインです。浸種後半は籾の状態をよく観察し、芽が動き出していたら早めに浸種を終了して次の催芽工程へ進みます
催芽で30~32℃に加温し、ハトムネ状態に仕上げる

浸種が終わったら、30~32℃の催芽機や加温装置で加温し、一斉に発芽を揃えます。1〜2日で仕上がります。
目指す状態は「ハト胸」と呼ばれる、幼芽が1mm程度顔を出した段階です。胚の部分が白く透けて見え、指で触ると少しぷっくりしているのが目印です。
やりがちな失敗:芽の伸ばしすぎと高温障害
個々で注意点ですが
注意点
- 芽の伸ばしすぎ
- 温度の上げすぎ
には十分気をつけましょう。
実例で最も多い催芽の失敗が「芽の伸ばしすぎ」です。芽が2mm以上伸びてしまうと、播種機に通したときに芽が折れたり、種もみ同士が絡まったりして、播種ムラが起きます。特に密苗栽培では1mm以下の制限が厳格です。
もう一つ怖いのが温度の上げすぎです。催芽温度が33℃〜40℃になると「芽は出るが根が出ない」という障害が起きやすくなります。催芽機のサーモスタットは必ず二重チェックしてください。
まとめ
それでは今日のまとめです。
- 催芽とは、種まき前に温度と水分を制御して発芽を揃える技術。やることで管理効率・発芽率・苗の品質がすべて向上する
- 米(水稲)は浸種時の水温10〜15℃と、催芽時の30℃が基本。芽は1mm以下の「ハト胸」で止める
催芽は一度コツをつかめば、毎年の播種作業が見違えるほどスムーズになります。まずは手元の種子の有効期限と発芽適温を確認するところから始めてみてください。
野菜の催芽についても詳しく知りたい方はこちらの記事へ