「育苗箱とセルトレイ、どっちを使えばいいの?」
「ポリポットのサイズが分からない…」
育苗の際に育苗容器の選択を間違えると、せっかくの苗が根巻き(根がくるくる鉢で巻いてしまい成長停滞や根腐れを引き起こす状態)を起こしたり、育苗容器から大きめのポットや畑に移した際に生長(定植後の活着)が悪くなったり、収量が大きく落ちてしまうことにつながります。
この記事では、水稲・葉菜類・果菜類の3つの作物カテゴリーごとに、どの育苗容器を選ぶべきかを、元資材屋で働いていた管理人が当時メーカーや農家さんから聞いたお話や実際の経験などを踏まえて徹底解説します。読み終わる頃には、あなたの作物に最適な育苗容器がわかるようになります。
ちなみにルートラップポットやチェーンポットなど特殊なものは別記事で詳しく説明するのでここでは触れません。
そもそも育苗容器を正しく選ぶことがなぜ重要なのか

育苗容器の選び方一つで、苗の品質は大きく変わります。根の張り方、苗の均一性、定植後の活着率などなど、これらすべてに育苗容器が直接関わっているからです。
たとえば、育苗期間が長い果菜類をセルトレーで育て続けてしまうと、土の量が足りずに根が回りすぎて老化してしまいます。逆に、大量生産したい葉菜類を1つずつポリポットで育てていては、スペースも手間もかかりコスパが非常に悪くなります。
つまり、
育苗容器を選ぶポイント
- 作物の種類
- 育苗期間の長さ
- 定植方法(生長して植え替える時の方法)
の3つの視点から容器を選ぶことが大切になります。まずは結論を見てみましょう。
作物別・育苗容器の早見表
結果から言うと、下の表のように作物別の育苗容器を選びます。
| 対象作物 | 最適な育苗容器 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 水稲 | 育苗箱(稚苗用・中苗用) | 田植え機対応の専用規格。安定した大量育苗が可能 |
| 葉菜類(キャベツ・レタス等) | セルトレー(128〜200穴) | 省スペースで大量育苗。機械定植対応。コスト効率が高い |
| 果菜類(トマト・ナス等) | 育苗ポット(9〜15cmポリポット) | 長い育苗期間に対応。鉢上げで根張りを促進 |
| ネギ類(白ネギ・タマネギ等) | チェーンポット/ペーパーポット | 根を傷めず定植。チェーンポットなら機械定植で大幅時短 |
| 果樹(ブドウ・みかん等) | ルートラップポット(不織布ポット) | 根巻き防止。根域制限で省スペース&早期収穫 |
もちろんそれぞれ詳しく話すと例外や他にも使うということは少なくはありません。ただ今回はざっとしたお話ということで、それぞれ解説していきます。
それぞれのプロ目線の詳しい説明については別記事にてお話しています。
- 水稲用育苗箱について種類、選び方を徹底的にお話している記事はこちら
育苗につかう容器3種類とは

まず、最初に育苗容器は大きく分けると以下の3種類があることを覚えましょう。
- 育苗箱
- セルトレイ
- 育苗ポット
詳しく話していきます。
育苗箱とは、お茶や食事を運ぶときのトレイに似ているプラスチック製の浅い箱です。水稲育苗に多く使われており、セルトレイやチェーンポットの下受け皿としても活用されたりもします。
セルトレイとはプラグトレイとも呼ばれ、小さなセル(穴)がずらりと連結したトレイです。大体72穴から448穴まで種類があり、1つのトレイで大量の苗を均一に育てられるのが強みで、野菜などで種から稚苗までの期間に多く使われます。
育苗ポットはポリポットとも呼ばれ、様々なカラーのポリエチレン製の植木鉢型容器です。多くのサイズがあり、1株ずつ十分な土を入れて、大きなサイズを使えば稚苗から成熟状態までつかえます。大体はセルトレイで稚苗を育てて、大きくなったらポットや畑に植え替える事が多いです。
補足にはなりますが、他にも
- ペーパーポット、チェーンポット
- ルートラップポット
と呼ばれるものもあります。簡単に説明すると、
ペーパーポット・チェーンポットは、紙製の育苗鉢です。セルトレイのように幾つかの苗を植えるための空間が用意されています。ペーパーポットはハチの巣状、チェーンポットは数珠状に連結しています。そのまま畑に紙ごと定植できるため、根を一切傷つけません。
ルートラップポットは、ポリエステル不織布で作られた鉢です。水と空気は通しますが根は通さず、根巻きを防いで健全な太い細根を育てられます。野菜の他に果樹でも使われており、果樹関係では根域制限栽培と呼ばれる樹木のサイズを制限した育て方をしたい場合によく使われます。
ではそれぞれの育苗容器をさらにわけて簡単に説明していきます。いずれそれぞれを詳しくした記事を個々に書いていく予定です。
水稲によく使う育苗箱の特徴と選び方

水稲用育苗箱には
- 稚苗用
- 中・成苗用
があります。基本的にはプール育苗に使うとすると稚苗用、使わなければ中・成苗用という感じで覚えてください。田植機や水稲資材にセットするために、基本内寸が長さ580×幅280mm(外寸約600×300mm)の規格で作られています。
また水稲の育苗では、上にお話したように、播種機や田植え機に適合する専用規格の育苗箱を使用するのが基本です。なので野菜兼用のものもありますが、水稲専用の育苗箱を使います。
それではそれぞれの特徴に付いてお話します。
稚苗用育苗箱の特徴
稚苗用の育苗箱は、底穴の数が少なく、穴自体も小さく設計されています。まだ根が十分に張っていない稚苗を育てるため、培土や肥料が底から流出しにくい構造になっているわけです。
底面の形状や穴の数が色々あり、クリスタルカット(ダイヤカット)タイプは稚苗用の一種で、余分な水は抜けつつも底面に少し水が溜まる構造をしています。これによって灌水回数を減らせるため、管理の手間が軽減できます。
中苗用育苗箱の特徴
中苗用は1枚あたり1,300個以上の穴があり、通気性と水はけに優れています。底面に凹凸がないため、灌水の滞留による病気の発生リスクも抑えられます。
ただし、水稲に使う場合は底の穴から培土がこぼれやすいため、「育苗箱敷紙」を敷いてから使用するのが一般的です。根が穴を抜けて下の土までいって水分や養分を吸収してくれるため、プール育苗ではなく圃場で育てる際はこちらを使うケースもあります。
葉菜類によく使うセルトレイの選び方(キャベツ・レタス・ブロッコリーを効率よく育てる)

キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、レタスなど葉茎菜類の育苗には、セルトレイが圧倒的に向いています。理由としては
- 狭いスペースで大量の苗を均一に育てられる
- 根鉢ごとそのまま定植できる
など作業効率が非常に高いからです。それでは選び方を見ていきましょう。
セルトレイの穴数の選び方
穴数は作物によって使い分けます。例を上げると
セルトレイ使用例
- キャベツ・ブロッコリー・ハクサイ:128穴が標準。根鉢がしっかり形成され、定植後の活着も良好
- レタス:200穴が一般的。苗が小さめで済むため、より多くの苗を一度に育てられる
- 家庭菜園向け:128穴が管理しやすくおすすめ。あまり穴数が多いと水やりなどの管理が難しくなる
などで使われているケースが多いです。
そしてセルトレイには黒いものや白いものがありますが、実はこれにも理由があります。
セルトレイの色の使い分け
基本的には黒いものと白いものがありますが、簡単に説明するとこれらには
- 黒:太陽の光を吸収して保温効果が期待できるため、春先や冬などの低温期の育苗に
- 白:太陽光を反射して地温の上昇を抑える効果があるため、夏の高温期の育苗(徒長や葉焼けの防止)に非常に有効
といった使い分けができます。
セルトレイ vs ポリポット|葉菜類にポリポットは使えないか?
結論としては、大規模栽培ならセルトレイ、家庭菜園ならポットという選択になります。
セルトレイでは一気に機械的に大量の育苗がしやすいですし、家庭菜園で少数の苗を丁寧に育てたい場合は、培土量が多いぶん水切れの心配が減り、定植までの期間にも余裕ができます。
小さいポットが連なってできたようなトレイ、25穴程度の連結ポットを使えば、セルトレイより太い茎と良好な根張りの苗に仕上がるという報告もあります。
果菜類によく使う育苗ポット(ポリポット)の選び方(トマト・ナス・ピーマンなど)

トマト、ナス、ピーマン、キュウリといった果菜類は、葉菜類に比べて育苗期間が長く、大きな苗に仕上げてから畑に定植する必要があります。なので、土の量が少ないセルトレイでは培土量が足りず、根が窮屈になって老化してしまうため、十分な容量があるポリポットが欠かせないのです。
作物別ポリポットサイズの目安
ではどのサイズを選ぶべきなのか、作物ごとに最適なポリポットサイズは異なります。例えば
ポリポットの使用例
- キュウリ:9cm(3号)——育苗期間が比較的短いため、小さめでOK
- トマト・ピーマン:12cm(4号)——第1花房が見え始める頃まで育てるのに十分な容量
- ナス:15cm(5号)——育苗期間が最も長いため、大きめのサイズで根をしっかり張らせる
ポイントは、1号サイズが上がるごとに口径が約3cm大きくなるという点です。大きすぎても培土が無駄になりますし、小さすぎると根が回って苗が老化します。作物に応じた適正サイズを選ぶことが大切です。
形状の選び方(スリット・連結)
実はポットも色々な形状の違いがあり、それぞれ特徴があります。代表的なものを上げると
- 通常の丸型ポット: 一般的ですが、根が壁にぶつかって鉢底でぐるぐる巻きになる「サークリング現象(根巻き)」を起こしやすいという弱点があります。根巻きすると定植後の生育が悪くなるため、根が回り切る前に植え付ける必要がある
- スリット入りポリポット: 側面に縦の切れ込み(スリット)が入っているタイプです。根がスリットに到達すると成長を止め、代わりに根元から新しい細い根をたくさん出すため、根巻きを防止し、健康な根張りを実現します。水はけが良い反面、土がこぼれやすいので室内での生育には注意が必要
- 連結ポット: 16〜49個のポットがセルトレイのようにつながったタイプです。土の量は必要ですが、セルトレイのまとめて移動・管理できる利便性と、ポットのがっちりした苗を作れるメリットを両立しています。
といった特徴があります。
他にも展示会などに行くと、渦上に螺旋があって根巻きしないようになっているポットや、上でもお話した根の成長を制限する不織布でできているルートラップポット、紙でできたチェーンポットなど特殊なポットも存在します。
色の選び方
もちろんセルトレイと同様に色による効果もありますが、単純に派手な色などどの鉢がどの作物か見分けしやすいようにカラーが付いているものもあります。代表的な色の効果といえば、
- 黒色: 太陽の光を吸収して地温を確保する効果があり
- シルバーや白:それらの色のポットは遮熱効果があり、アブラムシなどの害虫の忌避効果もあると言われている
- その他の色: 品種ごとに色を変えることで、管理時の区別がつきやすくなる
というものです。ご自分の作物や育成状況にあったものを選びましょう。
セルトレイからポットへの定植
プロの農家さんなどは果菜類では、最初から大きなポリポットに直接種をまくのではなく、まずセルトレーや育苗箱で発芽させ、本葉が2〜3枚出た段階でポリポットに移植する「鉢上げ」というものを行うのが一般的です。
この鉢上げにより、根の分岐が促されて根張りが格段に良くなります。生育のよい苗だけを選んで移植できるため、圃場に定植する苗の生長もバラバラになりにくくなります。
まとめ|育苗容器選びの3つのポイント
育苗容器の選び方は、まとめると以下の3つのポイントがあります。
育成容器の選び方
1. 作物の種類に合わせる——水稲なら育苗箱、葉菜類ならセルトレー、果菜類ならポリポット、ネギ類ならチェーンポット、果樹ならルートラップポット。これが基本の軸です。
2. 育苗期間の長さを考慮する——育苗期間が短い作物(葉菜類)はセルトレーの少ない培土量でも問題ありませんが、期間が長い果菜類は十分な培土が入るポリポットが必要です。
3. 定植時の根へのダメージを最小化する——ネギ類のように根を傷めると影響が大きい作物には、紙鉢ごと定植できるチェーンポットやペーパーポットが最適です。
育苗は「苗半作」と言われるほど、収穫の際に品質や収量に直結する重要な工程です。自分の作物と栽培規模に合った育苗容器を正しく選んで、健全な苗づくりを始めてみてください。
水稲用育苗箱について詳しい選び方や種類をお話している記事はこちらになります。